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【利休にたずねよ】に秘められた京を愉しむ      〈11〉
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My picture                 好き勝手絵 〈白天目茶碗〉


2009年 第140回 直木賞受賞作
「利休にたずねよ」    
著者 京都市在住 山本兼一

11   こうらいの関白   利休  170頁
利休切腹の前年 ―
天正18年(1590) 11月7日  夕さり
京   大徳寺門前利休屋敷  二畳半


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                           〈冬の朝 あわい光〉


聚楽第の書院に、冬の朝のあわい光が満ちている。真塗りの台子にしつらえた釜の湯音が、
穏やかにこころをくつろがせる。
上段の間に、赤い金襴の羽織を着た秀吉がすわっている。
利休の点てた薄茶を、小姓が秀吉の前にはこんだ。

白天目のすっきりした茶碗は、白い粘土にに灰釉をかけた和物である。
口縁にくるりとひとまわり塗ってある金が、青畳のうえに華やぎをそえている。
菓子は、麩の焼き。小麦の粉を水で溶いて、鉄鍋でうすく延ばして焼き、味噌を塗って
丸めたものだ。素朴な見かけだが、味噌にひと工夫しておいたので、噛むほどに味わいが深い。
片手で天目茶碗を持った秀吉が、茶をひとくち喫してつぶやいた。
「さて、高麗の使節のこと・・・・・」
この7月、かねて呼びつけていた朝鮮の使節が京にやってきた。
秀吉は張るからずっと小田原攻めで京を留守にしていたのだが、9月に帰洛してからも。
国使に謁見を許さず、待ちに待たせている。
~~~

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                             〈大徳寺法堂〉

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朝鮮史資料HPより              〈朝鮮使節団一行絵図〉
                        ・・本文に無関係のよく似た絵・・



5日後、朝鮮通信使の一行50人が聚楽第にあらわれた。つばの広い大きな帽子をかぶった男たちの行列が、旗を立て、長い喇叭をにぎやかに吹き鳴らしながら歩いてくる。
利休は、聚楽第の門前で、公家や大名衆らとともに、一行を出迎えた。
高麗の楽曲はかまびすしい。
高麗からわたってきた白磁や青磁は、どれも静かなたたずまいをもっている。
ことに青磁の色の深さはことばに尽くせない。音曲はそれとは対照的だ。
遠い海のかなたの国が、利休にはうまく想像できない。いったいどんな国なのか、できることならじぶんの足で訪ね、じぶんの目で確かめたい。
利休が初めて逢った高麗の女は、気高く物静かで ―。
 ― いや。
利休は首をふった。
あれは夢だったのだ。ただのまぼろしに過ぎないのではないか。
あんな美しい女が、この世にいるはずがない ―。
歳のせいか、このごろ、そう思うことがある。
そんなときは、懐に手を入れる。
そこには、いつもの緑釉の香合がはいっている。
握りしめれば、香合の丸みがすべての記憶を鮮明によみがえらせる。
利休は、また首をふった。
― きょうは、あなたの国の人が来る。
わたしは、うんと意地悪く迎えるつもりだよ ―。
いつもするように、こころの内で女に語りかけた。
あんなに優美で気高い女を不幸の窮みに追いやった国の男たちである。
やさしくなど迎えられるはずがなかった。
~~~

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                         〈大徳寺西側 瓦土塀と銀杏〉
My photo


宿舎の大徳寺にもどる一行を、利休は先導した。
馬上の黄允吉と金誠一は、苦い顔でまっすぐ前をにらんでいる。
長旅の果てにたどりついたのは、餅だけの饗応である。しかも、奉呈した国書への返書はなかった。これを確認しないかぎり、国使の職責はまっとうできない。
大徳寺山門の甍がむこうに見えたとき、利休は、わざとすこし歩みを遅くした。
かたわらの屋敷を手で示して、馬上の金に話しかけた。
「ここはわたしの屋敷です。本日の宴席の真意を説明いたしたい。
金閣下にお立ち寄りいただくようお願いいたします」
利休の大徳寺門前屋敷の前であった。
通事が訳すと、金は眉をひそめた。正使の黄は、すでに馬を進めて行ってしまった。
その合間で話しかけたのだ。
~~~

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My picture                    茶花〈むくげの花)


「こちらへどうぞ」
異国からの客を安心させるため、躙口を開いて、まず利休が入ってみせた。
手伝いの少厳に命じておいたので、炉にかかった釜が、湯気を立てている。
外で冷えきった体が、くつろいでほぐれるくらいにほどよく暖まっている。
金が、躙口からなかをのぞいている。
顔に警戒の色がうかんでいる。
床には、木槿の花を描いた軸をかけさせておいた。障子越しのやわらかい光に、
白い木槿の花が浮かんで見える。花のまんなかが紫色に染まり、いかにも儚げに匂いたっている。季節ははずれているが、高麗の人間が好む花である。
香は白檀を炷かせておいた。
こころの刺々しさをすっかり消し去ってくれる高貴なやすらぎがある。
畳に手をついて、金が入ってきた。
立ったまま木槿の軸をしげしげながめながら。
軸の絵をゆっくり眺めた金の視線はその周囲にうつった。
柱や天井までを土で塗りまわした室床である。
ちいさく首をかしげてから、頭がつきそうなほど低い網代の天井を見上げ、
しばらくじっとしていた。
ゆっくり壁を見た。粗塗りの壁に、薄墨色の紙が貼ってある。
また首をかしげて、金誠一が腰をおろした。片膝を立ててすわっている。
「じぶんの家に帰ったようだ」
躙口から顔をのぞかせた通事が、その場で通訳した。
~~~


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                  〈利休屋敷を高桐院に移築し現在書院となっている〉


翌年早々、秀吉からの返書をたずさえて漢陽に帰った一行は、すぐに倭国の情勢を復命したが、国王が正使の黄允吉と副使の金誠一を呼んだとき、二人はまったく逆の具申をした。
「必ずや兵禍がありましょう」と黄允吉は、答えた。
「そのような兆候は見ておりません」と金誠一は答えた。
さらに金は、「允吉がいたずらに人心を動揺させるのは、いかがなものか」
とまで口にした。
朝鮮国王が正使黄允吉の報告をとりあげて沿岸の防衛をかためていれば、
秀吉は簡単に半島に攻め込むことはできなかっただろう。
それは利休が腹を切ったのちの話である。

以上本文より


次は「野菊」   秀吉 187頁
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by koshian-honpo | 2013-02-27 21:46
【心地よい春のおとずれ】  3   祇王寺           2月23日
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My photo &Mi                〈祇王寺 本堂〉

陽射しは麗かな春を僅かに感じさせてくれましたが
もう少しで、苔も鮮やかになり昔と変わりない古の風情を味わえます。

                   


                           
                            ・・・・・☆・・・・・

 平清盛の寵愛を失い、余生を尼になって過ごしたと伝える白拍子祇王にゆかりの寺で、
  苔の庭に楓や竹の間から木漏れ日がさし、藁葺の庵は物語にふさわしい趣が漂います。


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                             〈拝観入り口〉

平家物語の巻頭に、

祇園精舎の鐘の声     諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色     盛者必衰のことわりをあらはす
おごれる人も久しからず  唯春の夜の夢のごとし
・・・・・

と美しく書き出してあるが、更に読み進むと祇王祇女の事が出て来る。
これは平氏全盛の頃、平清盛と二人の女性の哀れな物語である。


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                              〈苔庭 1〉
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                              〈苔庭 2〉
                                
                               ☆☆☆

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                             〈境内の竹林〉
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                              〈寒牡丹〉
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                        どこかで春が   生れてる
                        どこかで水が   ながれ出す


                        どこかで雲雀が  啼いている
                        どこかで芽の出る 音がする
                          
                        ~~~

懐かしい「春」を感じとれる好きな詩です。
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by koshian-honpo | 2013-02-24 14:58
【利休にたずねよ】に秘められた京を愉しむ      〈10〉
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鐘HPより                     〈大晦日 除夜の鐘〉


2009年 第140回 直木賞受賞作
「利休にたずねよ」    
著者 京都市在住 山本兼一

10   ことしかぎりの  宗恩 154頁
利休切腹の三ヶ月ほど前 ―
天正19年(1591) 1月1日  朝
京   聚楽第  利休屋敷


― 薄情なひと。
宗恩は、これまでになんど、利休をそう詰ろうと思ったかわからない。
しかし、そんなふうに思うたびに、いつも舌が動かなくなる。
面とむかうと口にはできない。
どうしても口にさせない強烈ななにかが、利休にはそなわっている。
灯明の芯をみじかく暗くして、褥で横になっていると、除夜の鐘がきこえた。
寒夜のことで、嫋々とした余韻がある。
「・・・・・おい」
襖のむこうで利休が呼んだ。
用向きによって、利休は声の抑揚がちがう。それを聞き分けなければ機嫌がわるい。

いまのひそめた声は ―。
宗恩は、だまって襖を開けた。両手をついて頭をさげ、夫の寝所にはいった。
利休は、薄縁にあお向けに寝ている。見なれているはずの寝すがたに、
宗恩はおもわず息をのんだ。
 ― なんと。
~~~

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My picture                〈千利休が特に好んだ椿の蕾〉


ある夜など、なにが気に入らなかったのか、座敷にあがった利休が、すわりもせず、
ひとことの口もきかずに帰ってしまったことがあった。
「先夜はいかがなさいました」
つぎに来た夜に、恐る恐るたずねてみた。
「椿がな・・・・・」
床の花入れに、蕾を活けておいた。
「赤い椿はお嫌いでしょうか」
「いや、赤いのはよいが、すこし開きすぎていて落ち着かなんだ。あれでは座っていられない」
利休が、丸くかたい椿の蕾を好むのはよく知っていた。すこし開き気味の椿も興があるかと活けてみたのだ。
「お気に召しませんなんだら、お申しつけくだされば、すぐに取りかえましたのに」
「そんな無粋は好かんでな」
おもしろくもないと言わんばかりの顔つきで、利休は瞑目した。


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茶花HPより                      〈結び柳〉

広間の床柱にかけた竹の花入に、結び柳がかざってある。
一丈もある長い柳の枝を、いちど輪にして、床の畳まで垂らしたのは利休である。
よいことがくり返すようにとの願いがこめてある。
薄紅と白の椿の蕾がそえられ、あでやかな風情だ。
掛け物は、おおらかだがゆるみのない古渓宗陳の筆である。

「松 無 古 今 色」     松に古今の色無し

千歳もかわらぬ常盤のみどりを賞した禅語であろう。
その前に置いた香合は金蒔絵で、ことしの干支の兎がいきいきと跳ねている。

利休がめずらしく逡巡のなかにいる。宗恩にはそれがわかる。
「短冊と筆を・・・・・」
手伝いの女にもってこさせると、利休は立ったまま筆をはしらせた。

        あはれなる老木の桜えだくちて
                 ことしばかりのはなの一ふさ


そうしたためた短冊を見せられた。
「わしも、老いたものだ・・・・・」
つぶやいた利休の課をには、ひとかけらの自負も傲慢も見あたらない。
ただのくたびれた老人の面立ちであった。
宗恩は、利休の背中に頬を寄せた。
夫の熱を感じたくて、しばらくそのままじっとしていた。

本文より



次は「こうらいの関白」   利休 170頁
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by koshian-honpo | 2013-02-24 14:22
【利休にたずねよ】に秘められた京を愉しむ      〈9〉
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My picture           ・・・好きなように焼(描)き上げた白樂茶碗・・・

2009年 第140回 直木賞受賞作
「利休にたずねよ」    
著者 京都市在住 山本兼一

9  うたかた     利休  138頁
利休切腹のふた月と少し前―
天正19年(1591) 1月18日 朝
京   聚楽第  利休屋敷

                           ・・・☆・・・

利休は夜明け前に目をさました。
どろりとした眠りの海の底から浮かび上がると、寝所の闇が冷えきっている。
未明の闇はどこまでも深く暗く、黄泉の国につうじている気がした。
褥で横になったままじっと目をこらした。なにも見えない。
漆黒の静寂だけが、そこにある。
― 闇は死の国への入り口か。
そう思えば、胸が重くしめつけられ、息苦しくなった。もがき、顔をなで、
自分がまだ生きてこの世にあることを確かめた。額には脂汗がにじんでいる。
首筋の寒さにちいさく身震いして、買い捲巻の襟を引き寄せた。
利休はこの正月で、70になった。
いたって壮健なつもりだが、歳を考えれば、いつ迎えが来てもおかしくない。
ちかごろは、夜明け前の闇に目をさまし、褥で物思いに耽ることが多い。
― つまらぬ生き方をした。
来し方を思い起こせば、悔いの念ばかりが湧いてくる。
衰えた肉と骨をさいなむものは、砂を噛むむなしさである。
― 茶の湯など、なにほどのことか。
こうして無明の闇を見つめていると、茶の道に精進してきた自分の生き方が、まるで無意味だったと思えてくる。
~~~

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inspirationより                本文と関係のない〈夜明け〉


― もしも、あのとき・・・・。
利休には、頭を離れない悔悟の念がある。
闇の褥で、いつも七転八倒してしまうのは、そのせいだ。
19のときだ。堺の家に、高麗の女が囚われていた。
― もしも、あの高麗の女をつれて、うまく逃げ出していたら・・・。
女の手をひいて堺の町を密かに抜け出し、摂津の福原か播磨の室津へ走る。
そこから船に乗って、西へ西へと海を渡り、九州まで行く。
九州のどこかならば、高麗にわたる船があっただろう。
高麗が無理なら、壱岐か対馬にわたる。
そこからまた船をさがすー。
~~~

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本文にある高麗からの器           〈李朝後期の井戸茶碗〉
Wikipediaより参考 


水汲みは少厳にまかせ、利休は墨小屋にむかった。炭は、下働きの男が長さをはかって丁寧にのこぎりで切りそろえ、洗って天日でほしている。利休はそれを一本ずつ自分の目でたしかめて選ぶ。
気に染まぬものは、炭一本として使いたくない。

炭小屋の板戸が、指一本分だけ開いていた。
― だれが閉め忘れたのか。
首をかしげて、戸に手をかけると、思いのほか、すっと開いた。
なかを見て、利休は、ぎょっと凍りついた。
小屋の梁から、人がぶら下がっている。
薄紅の小袖を着た女である。だらんと垂れ下がった足に、白足袋をはいている。見上げると、
苦悶に大きくゆがんだ顔は、娘のおさんであった。おさんが首をくくって死んでいた。
~~~

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My photo                〈本文とは関係のない嵯峨の竹林〉

 
「一服進ぜよう」
つぶやいて、利休は台子の前にすわった。
薄茶を点てると、天目の茶碗を、おさんの枕元にはこんだ。
飲ませてやりたい。
― さて。
思いあたって、利休は立ち上がった。襖を開け、となりの大書院の床の間に活けてある水仙を一輪ぬいた。
水仙の花を、茶に浸した。
美しく紅をひいたおさんの唇に、茶の滴をしたたらせた。
赤い唇についた緑の茶は、ぞっとするほど毒々しく、利休のこころを狂おしく悶えさせた。
利休のこころの闇に、夥しいうたかたがはじけ、饐えた匂いをふりまいた。

本文より

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My photo                 〈西光寺の僧侶・渡月橋にて〉


うたかた・・・・・泡のように消えやすくはかないこと。
参考 角川書店 新国語辞典


次は「ことしかぎりの」   宗恩 138頁
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by koshian-honpo | 2013-02-22 20:24
【樂美術館】 樂歴代 春節会の趣         2月20日
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今年に入り、【利休にたずねよ】に秘められた京を愉しむ・・・ で黒樂や赤樂の茶碗などを
私の好きな描き方で、土も練らず、釉薬も垂らさず、そして窯にも入れず、
勝手な遊び心で、樂焼を自己満足のみで創ってきました。
本物の樂茶碗をもう一度じっくり見たく、美術館へ足をかこびました。

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                         〈ロビーに渋い竹筒の茶花〉

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                      〈初代 長次郎 黒樂茶碗 銘 面影〉


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                     〈15代 吉左衛門 焼貫茶碗 銘 白駱〉


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                     〈本阿弥光悦作 白樂茶碗 銘 冠雪〉
                             江戸時代
以上絵葉書より3題


この日は、一人だけに会っただけで、静かな会場をゆったりとした時間をかけ存分に
樂焼の素晴らしさを味あわせていただき、言い表わせない感動で胸が熱くなりました。
                              


                               ☆☆☆



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表千家六世覚々斎作不二之絵        田中宗慶作初雪            二代道入作早梅           六代左入作桃里

おしらせパンフより


                               ・・・☆・・・


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                     〈吉左衛門 暗闇の音・静寂の光 パンフより〉




また【利休にたずねよ】にもどります。



 
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by koshian-honpo | 2013-02-21 16:24
【利休にたずねよ】に秘められた京を愉しむ   〈8〉
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                       〈バチカン・サンピエトロ聖堂の中〉
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                       〈バチカン・システィーナ礼拝堂〉

2009年 第140回 直木賞受賞作
「利休にたずねよ」    
著者 京都市在住 山本兼一

8  鳥籠の水入れ  ヴァリニャーノ  122頁
利休切腹のひと月と20日前―
天正19年(1591)閏1月8日 昼
京   聚楽第  三畳


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                            〈ヴァリニャーノ〉
アレッサンドロ・ヴァリニャーノ〈1539年2月15日 - 1606年1月20日)は、
キリシタン時代の日本を訪れたイエズス会員、カトリック教会の司祭。
イエズス会東インド管区の巡察師として活躍し、天正遣欧少年使節派遣を計画・実施した。
参考 Wikipediaより


・・・☆・・・

「いいかね、日本人の風俗や習慣は、世界のなかでは、かなり珍妙な部類に属するのだ。
君たちには辛いだろうが、そのことは、はっきり認識してもらわなければならない」
聚楽第で関白秀吉に謁見するにさきだって、イエズス会東インド巡察師アレシャンドゥロ・ヴァリニャーノは、4人の若者を前に話しはじめた。4人は金モールの縁飾りがついた黒いビロードの長袍を着ている。
関白殿下からあてがわれた都の宿舎である。かっては彼の屋敷であったというだけあって、建築は精妙だし、庭は瀟洒で美しい。こういうことにかけてなら、日本人ははなはだ優秀で、特異な才能を発揮する。
~~~

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                          〈サンピエトロ聖堂正面〉

伊東マンヨー、千々石ミゲル、中浦ジュリアン、原マルティノの4人がうなずいた。
十三歳で日本を出発した彼らも、帰国したいまは、もう二十歳を過ぎた青年である。
長い旅の果てに、スペイン国王とローマ法王に謁見した4人は、ヨウロッパ各地で熱烈な歓迎を受けた。地球の裏側から連れていっただけの成果はじゅうぶんに上がった。
インド以東でのイエズス会の布教活動は、ヴァチカンの枢機卿たちに広く認知され、高く評価された。
8年たってもどってみると、日本の政治情勢が大きく変わっていた。
暴君信長は殺され、あとをついだ秀吉が、伴天連追放令を出していた。
宣教師たちは都を追われ、九州で息をひそめている。

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                        〈バチカン・コロナート列柱〉
写真はバチカン市国観光HPより


ヴァリニャーノは、丸くふっくらした小さな壷を手のひらにのせた。
外はよく晴れているというのに、紙を張った窓からは、ほのかな光しか射さず、
茶色い小壺は、くすんでしか見えない。それはやはりただの土の焼き物で、
どんなにためつ眇めつしても、なんら価値あるものとは考えられない。
食卓の塩入れにつかうにも、これではあまりに味気ない。
― 鳥籠の水入れにしかならない
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                     今焼きあがり?の好き勝手窯 練香小壺絵

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My picture ! 2題         今塗りあがり?の好き勝手黒漆 練香小壺絵


「ひとつおたずねしてよろしいでしょうか」
ヴァリニャーノの言葉を、ロドリゲスが訳した。関白が目でうなずいた。
「似たような小壺であっても、一文の値打ちのない物も多いと聞きます。いったいなにがちがうのでしょうか」
それが、一番たずねたかったことだ。
茶を司る坊主は、ヨウロッパの宝石商がおこなうように、千個の類似品のなかからでも、たったひとつの伝説の品を選び出す。
老人の顔を、ヴァリニャーノはしげしげ見つめた。じつに不敵な面がまえをしている。
「それは、わたしが決めることです。私の選んだ品に、伝説が生まれます」
ヴァリニャーノは、老人の言葉に、美の司祭者としての絶対の自信を聞き取った。



次は「うたかた」   利休 138頁
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by koshian-honpo | 2013-02-18 19:51
【利休にたずねよ】に秘められた京を愉しむ   〈7〉
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NHK新日曜美術館より            山門・金毛閣〈龍の天井絵〉
                             長谷川等伯筆

2009年 第140回 直木賞受賞作
「利休にたずねよ」    
著者 京都市在住 山本兼一


7   狂言の袴   石田三成  106頁
利休切腹のひと月とすこし前―
天正19年(1591)閏1月20日 昼
京   聚楽第  池畔の四畳半


大徳寺山門楼上への急な梯子段を登ると、京の町の展望がひらけた。
松の緑のむこうに、上京の家並みと東山が見える。朝の陽射しは暖かいが、風が冷たい。
「あれが船岡山でございます」
先に立って案内する古渓宗陳のことばに、石田三成はうなずいた。
いつだったか、あの船岡山に、大寺院を建立すると、秀吉が言い出したことがあった。
わが主ながら、よくぞ次から次へと大がかりな普請や作事を思いつくものだと驚かされ。
いま、京では、秀吉のさしずどうりに大路小路を広げ、土居と堀で都全体を囲っている。
世の中は秀吉の思うがままに動いている。

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My photo                  〈金毛閣への階段〉非公開
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光村推古書院 時代マップより         〈洛中洛外図屏風〉


「聚楽第が見えております」
遠くに三層の館が小さく見えている。そこの主は、尾張に鷹狩りに出かけている。
三成には、帰ってくるまでに片付けておけと命じられた仕事がある。
「そんなことより、中を見せてもらおう」
若い雲水が丹で塗った扉を開けた。檜が強く薫り、なにもないがらんとした空間が広がった。
応仁の乱で焼けたあと、一層部分しか再建されなかった山門の上に、
利休が楼閣を寄進して増築した。それがこの金毛閣である。
天井に大きな竜の絵が描いてある。大胆にして雄渾な線は、長谷川等伯の筆だ。
梁に白い波が逆巻き、柱に赤い仁王が踏ん張っている。
天井の四隅には、金色の可憐な天女の彫像がかざられ、色とりどりの珠をつらねた瓔珞が垂れている。
― これまた。
念の入ったしつらえだと感心した。利休という男は、なにごとにも周到に気がつき、疎漏がない。
嫌みなほどみごとに気配りが行き届いている。
広い空間の正面に、一体の立像が安置してある。
仏像ではない。大柄な利休をそのまま生写しにした彩色の木像である。
黒い衣を着て袈裟をかけ、頭巾をかぶっている。
杖を手に、どこかに旅立つすがたでもあろうか。

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                       〈千利休肖像画〉長谷川等伯筆

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My photo             〈石田三成 菩提寺〉三玄院・大徳寺塔頭

― しかし、気に喰わぬ。
あの男、人を見下している。
じぶん以外はみな愚者と思っているにちがいない。木像のとろりとした眼差しを見ていると、三成の腹に、また利休への怒りがこみあげてきた。秀吉に命じられる前から、三成も
利休のことは腹にすえかねていた。
「なにか、差し障りでもございましょうか」
宗陳が不審げにたずねた。
「さよう。大いに障りがござる」
三成は、ふり返って宗陳を見すえた。墨染めの衣を着た老僧の顔がくもった。
「なにがお気に召しませぬ」
「なにがどころではない、なぜ、このような木像を置いたのか。この寺では釈迦牟尼のかわりに利休をありがたい本尊として崇めておるのか」
宗陳が首をふった。
「これは異なことをうけたまわる。この金毛閣は、千家一族をあげての大寄進。ただ銀をいただいたばかりではござらぬ。材木を集め、大工を雇い、作事を奉行し、絵師を差配し、
すべて利休殿が、当山のために奔走してくださった。その功を顕彰する木像でござれば、
なんの障りがありましょう。関白様には、像の安置もあらかじめお届けしてあります」

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My photo                  〈三玄院壁に松の陰〉

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NHK新日曜美術館より         〈長谷川等伯が描いた襖絵〉
等伯が、住職の留守の合間にいたずらで、襖の桐を雪に例え
上から墨で雪景色を描いたと言われている。
〈現在は圓徳院に所蔵〉




「寄進者の顕彰は、どこの寺でもやること、それが不都合とはいかがなわけでございましょうか」
強い眼差しで宗陳が三成をにらんだ。老僧ながら不敵な面構えである。
「帝も関白殿下もお通りに「なる山門でござる。
その上に茶頭風情が草履をはいて立ち、股の下をくぐらせるとは、不敬もはなはだしい。寄進の功を讃えるなら棟札ですむこと。木像をかざるなら、なぜ控えて隅に置かぬ」
「それは・・・・・」
「申し開きがあるか」
にらみ返すと、宗陳が喉を詰らせた。ことばは出てこない。
三成は踵を返して廻り縁に出た。
よく晴れた青空に浅い春野風がこころよい。
― よいものを置いてくれた。
こんな都合のよい口実があれば、いくらでも利休を糾弾できる。
三成はひとり深くうなずいた。

~~~

前田玄以が膝をのりだした。
「九州御出陣のおり、箱崎の浜の野点にて、上様がご覧になり、ひと目でご執心あそばされたとか。
千金を積むとの仰せにも、利休め、首を横にふるばかりであったそうな」
「まこと高慢な男。しかし、どんな香合か、いちど見たいもの」
「それがしも見たことはございません。瑠璃の玉より鮮やかな色をしておるらしゅうござる」
「玉を削った香合か」
「いえ、焼き物とのことでござる。よい品なら茶の席に飾ればよかろうに、客にも弟子にも見せたことがないらしい」

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My picture                 〈好き勝手に色づけした香合〉



「茶の道具などというもの、人に自慢してみせるために高値をいとわず購うものと思うておった。
あの男に、そんな秘めたこころがあるか」
玄以が、鼻をなでた。
「なにやら艶めいた因縁があるらしゅうございます」
「なんだ、女か、つまらぬ」
「もとの話は下世話でも、狂言まわしには、なによりの種と存じます。ただいまからでも、それがし、この狂言袴を利休に返し、代わりにその香合、なんとしても聚楽第の宝物となしましょう」
瞼を閉じた三成は、まだ見たこともない美しい香合を思い浮かべようとした。
浮かんだのは、金毛閣の利休像であった。
道行きの姿である。
旅立ちたいなら、そのまま十万億土にでも行くがよい。驕り高ぶった茶頭の行く先は、
そこがふさわしかろうー。
池水に風邪がそよぎ、白い障子の光が大きく乱れた。
大釜の湯が、力強い音を立てて滾っている。

本文より


次は「鳥籠の水入れ」  ヴァリニャーノ 122頁
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by koshian-honpo | 2013-02-15 15:38
【心地よい春のおとずれ】  2  梅宮大社
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My photo Mi                    〈老白梅〉  

2月14日、きょうは日差しがかなり暖かく散歩に打ってつけの日でした。
片道30分で梅の名所の「梅宮大社」へと歩きはじめました。
少しの運動は身体のために、二人共良いことなので、最近一緒に出掛けることが多いです。
写真も競って撮り合っており、お互い全くの我流ですがとても楽しいものです。

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My photo Mi                  〈メジロのさえずり〉

                            ・・・・・☆・・・・・

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                              〈蝋梅〉

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                             〈白梅アップ〉

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                              〈金柑と鳥居〉

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My photo                       〈万両と鳥居〉


「利休にたずねよ」からちょっと横道に逸れましたが、また戻ります。

                       
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by koshian-honpo | 2013-02-14 17:23
【心地よい春のおとずれ】  1  大覚寺・大沢の池
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                         大覚寺境内の〈大沢の池〉

この池は中国の洞庭湖を模した、嵯峨院庭園の遺構で、「小倉百人一首」で有名な大納言藤原公任の
「滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなお聞こえけれ」に詠まれた名古曾滝は
古くからの名所で、近年発掘調査成果に基づき遣水が復元整備され、「大沢の池 附 名古曾滝跡」として国の名勝に指定されている。



2月12日 、今大流行のインフルエンザも夫婦共々完治したので、春の心地よい風に吹かれたいと、
いつもの大沢の池へ散歩にでかけました。


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                        〈梅林内  白梅の蕾ふくらむ〉


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                        〈梅林内  紅梅の蕾ふくらむ〉


つぎは「梅宮大社」
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by koshian-honpo | 2013-02-14 16:41
【利休にたずねよ】に秘められた京を愉しむ   〈6〉
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My picture                 本阿弥光悦風赤楽茶碗    
               ・・・我流で焼(描)きあがった自己満足楽焼好き放題・・・

2009年 第140回 直木賞受賞作
「利休にたずねよ」    
著者 京都市在住 山本兼一


6   木守  徳川家康  90頁
利休切腹のひと月前―
天正19年(1591)閏1月24日 朝
京  聚楽第 利休屋敷  四畳半

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                    〈北区堀川通り晴明神社内にある屋敷跡碑〉
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                              〈虫籠窓〉
               

―わしを殺すつもりか。
徳川家康は、利休屋敷の大門を見て、じぶんの喉を撫でた。
二層の門は、上にすっきりした虫籠窓があり、瓦屋根のみくり具合が洒落ている。
京でもこれほど瀟洒な門はめずらしかろう。
風雅ながら、どこか意思の強さを秘めた門である。

―茶人などというものは。
見かけのしおらしさを拵えるのは、得意中の得意にちがいない。まったく、みょうなものが、世に流行る。
家康は、利休から朝の茶に招かれている。
京の宿にした豪商茶屋四郎次郎の家を出るとき、殺されるのではないか、と、ひき止められた。
「茶に毒を盛られるやもしれませぬ。病と称して行かれぬのが賢明でございましょう」
四郎次郎が言うように、たしかに、身の危険は感じている。
伊達政宗に謀反の嫌疑がかかっているいま、政宗を取りなした家康も関東から上洛したのは、
つい一昨日のことだ。

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                         〈庭のせせらぎ〉イメージ
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My photo                  〈侘びた しおり戸〉イメージ   

秀吉は尾張に鷹狩りに出かけているとかで、まだ拝謁していない。
いったい、どんな扱いをうけるのかー。
秀吉の天下取りの仕上げとして、家康の命の意味はおおきかろう。
「さような無茶も致すまい」
茶の湯に招かれて死んだとあっては、利休が毒を盛ったのはあきらかで、
言い逃れのしようがない。


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My picture             〈本文とは関係のない自己満足赤楽茶碗絵〉


赤い今焼きの茶碗を手に取り、中を見つめた。美しい緑色の茶がとろりと練ってある。
毒が入っているとは思えない。
口にふくむと、極上の濃茶であった。
「お腹加減はいかがでございましょう」
利休がたずねた。
「けっこうだ。甘露である」
茶の深い滋味が、酔いに火照ったからだにゆくわたる。
膝の前で、茶碗をながめた。赤い肌に、おぼろな黒釉が刷いたようにかかっている。
「銘は何と言うのかな」
「木守でございます」


ふと眼をあげると、利休が懐を手でおさえた。なにかを隠したらしい。
「それはなんだ」
家康は、茶碗を置いて立ち上がった。油断をしすぎたー。
立ったまま、利休の懐に手を入れた。指先にふれたのは、布袋につつまれた小さな壷らしい。つかんで取り出した。色あざやかな布袋をはずすと、真っ赤なギヤマンの壷が出てきた。
―毒壷だ。

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茶道具HPより               〈本文とは関係のない赤い香合〉

利休を睨みつけた。まったく油断のならぬ男手ある。
「香合でございます」
「言いのがれはさせぬぞ。毒であろう」
金細工の壷を開けると、丸い練り香が出てきた。
―そんなはずがあるものか。
練り香をすべてとり出したが、ほかにはなにもない。
畳にころがった練り香をひとつ摘むと、利休は指先で潰して見せた。
ふっと、甘い香りがただよった。
粉になった香を、利休は口に含んで低頭した。
家康は、美しいキヤマンの小壺から目を離すことができなかった。

本文より


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by koshian-honpo | 2013-02-12 20:39