京の旅あれこれ【こしあん本舗】
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【利休にたずねよ】に秘められた京を愉しむ   〈6〉
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My picture                 本阿弥光悦風赤楽茶碗    
               ・・・我流で焼(描)きあがった自己満足楽焼好き放題・・・

2009年 第140回 直木賞受賞作
「利休にたずねよ」    
著者 京都市在住 山本兼一


6   木守  徳川家康  90頁
利休切腹のひと月前―
天正19年(1591)閏1月24日 朝
京  聚楽第 利休屋敷  四畳半

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                    〈北区堀川通り晴明神社内にある屋敷跡碑〉
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                              〈虫籠窓〉
               

―わしを殺すつもりか。
徳川家康は、利休屋敷の大門を見て、じぶんの喉を撫でた。
二層の門は、上にすっきりした虫籠窓があり、瓦屋根のみくり具合が洒落ている。
京でもこれほど瀟洒な門はめずらしかろう。
風雅ながら、どこか意思の強さを秘めた門である。

―茶人などというものは。
見かけのしおらしさを拵えるのは、得意中の得意にちがいない。まったく、みょうなものが、世に流行る。
家康は、利休から朝の茶に招かれている。
京の宿にした豪商茶屋四郎次郎の家を出るとき、殺されるのではないか、と、ひき止められた。
「茶に毒を盛られるやもしれませぬ。病と称して行かれぬのが賢明でございましょう」
四郎次郎が言うように、たしかに、身の危険は感じている。
伊達政宗に謀反の嫌疑がかかっているいま、政宗を取りなした家康も関東から上洛したのは、
つい一昨日のことだ。

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                         〈庭のせせらぎ〉イメージ
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My photo                  〈侘びた しおり戸〉イメージ   

秀吉は尾張に鷹狩りに出かけているとかで、まだ拝謁していない。
いったい、どんな扱いをうけるのかー。
秀吉の天下取りの仕上げとして、家康の命の意味はおおきかろう。
「さような無茶も致すまい」
茶の湯に招かれて死んだとあっては、利休が毒を盛ったのはあきらかで、
言い逃れのしようがない。


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My picture             〈本文とは関係のない自己満足赤楽茶碗絵〉


赤い今焼きの茶碗を手に取り、中を見つめた。美しい緑色の茶がとろりと練ってある。
毒が入っているとは思えない。
口にふくむと、極上の濃茶であった。
「お腹加減はいかがでございましょう」
利休がたずねた。
「けっこうだ。甘露である」
茶の深い滋味が、酔いに火照ったからだにゆくわたる。
膝の前で、茶碗をながめた。赤い肌に、おぼろな黒釉が刷いたようにかかっている。
「銘は何と言うのかな」
「木守でございます」


ふと眼をあげると、利休が懐を手でおさえた。なにかを隠したらしい。
「それはなんだ」
家康は、茶碗を置いて立ち上がった。油断をしすぎたー。
立ったまま、利休の懐に手を入れた。指先にふれたのは、布袋につつまれた小さな壷らしい。つかんで取り出した。色あざやかな布袋をはずすと、真っ赤なギヤマンの壷が出てきた。
―毒壷だ。

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茶道具HPより               〈本文とは関係のない赤い香合〉

利休を睨みつけた。まったく油断のならぬ男手ある。
「香合でございます」
「言いのがれはさせぬぞ。毒であろう」
金細工の壷を開けると、丸い練り香が出てきた。
―そんなはずがあるものか。
練り香をすべてとり出したが、ほかにはなにもない。
畳にころがった練り香をひとつ摘むと、利休は指先で潰して見せた。
ふっと、甘い香りがただよった。
粉になった香を、利休は口に含んで低頭した。
家康は、美しいキヤマンの小壺から目を離すことができなかった。

本文より


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by koshian-honpo | 2013-02-12 20:39