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【利休にたずねよ】に秘められた京を愉しむ      〈14〉
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                         〈大徳寺法堂 雲龍図〉
狩野探幽、35歳の筆。
ゆるいドーム状になった天井に画かれた龍は「鳴き龍」と呼ばれ、
地面の敷瓦の上で手を叩くと、天井の龍もズウゥゥンと共鳴して音をたてます。          
                                臨済宗公式サイトより




2009年140回 直木賞受賞作
「利休にたずねよ」    
著者 京都市在住 山本兼一

14 「三毒の焔」  古渓宗陳  219頁
利休切腹の3年前 ―
天正16年(1588)8月19日  朝
京都 聚樂第 利休屋敷 二畳半  

古渓宗陳 
安土桃山時代の禅僧。大徳寺の江隠宗顕,笑嶺宗訢のもとで修行し,
のち大徳寺の住持となった。豊臣秀吉は宗陳を織田信長の菩提のために創建した
総見院の開山に迎え,信長の葬儀に導師を命じた。
権勢を恐れず,石田三成と衝突し,しばらく博多に流されたこともある。
茶の湯をよくたしなみ,千利休の参禅の師である。
Wikipediaより




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                            〈総見院・玄関〉
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                            〈総見院・鐘楼〉


― 人の世は、湯快だ。いや、おもしろ過ぎてたまらぬわい。
古渓宗陳は、大徳寺総見院の自室で、旅のしたくをしながら、
こみ上げてくる笑いを堪えかねていた。総見院は、織田信長の菩提を弔うために、
秀吉が建てた寺である。6年前、宗陳は、秀吉に請われてこの寺の開山となった。
以来、洛北の地で禅定三昧―、といけばよかったのだが、
ことは、そう都合よくは運ばない。

秀吉は、なにかにつけて宗陳を表舞台にひきずり出そうとした。
宗門の降盛を思えば、それはそれでありがたいことには違いないが、
はなはだやっかいなことでもあった。
表舞台に引きずり出されれば、どうしてもあちこちにしがらみと軋轢が生まれてしまう。
好むと好まざるとにかかわらず、濁世の争いに巻き込まれることになる。
宗陳は、思わずにいられない。
― まったく、人の世には、三毒の焔が燃えさかっておる。
三毒は、仏法が説く害毒で、貪欲、瞋恚、愚痴、すなわち、
むさぼり、いかり、おろかさの三つである

つらつら思えば、世の中のわざわいや有為転変、人の浮き沈みは、
ほとんどこの三つの毒で説明がつく。
人が道を誤るのは、たいていもの三毒が原因だ。
宗陳は、明日の朝、京を出ていかなければならない身となった。
秀吉のいかりをかって、九州に追放になるのである。
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網代笠をかぶり、雲水姿となった宗陳は、夜明けとともに聚樂第の利休屋敷をたずねた。
昨日のうちに、利休から茶の誘いが来ていたのである。
若い門弟に案内されて、露地を歩いた。
ほのかな藍色に明るみはじめた庭は、市中にありながらも、深山幽谷の趣があった。
茶室の軒下で笠と袈裟文庫をはずし、壁の竹釘に掛けた。
躍口から入ると、二畳半の茶席は、手燭の光が明るかった。
床に、軸が掛けてある。膝でにじり寄って読んだ。

隠隠孤帆絶海来  隠隠いんいんたる孤帆こはん海をわたり来たる
虚空消殞鉄山摧  虚空消殞こくうしょういんして鉄山を摧くだく
大唐国裏無知識  大唐国裏だいとうこくり知識無し
己眼当従何処開  己眼当こげんまさに何れの処よりか開くべき
のびやかな書体で、そうしたためてある。

この軸は、以前、秀吉に見せられたことがあった。
虚堂智愚の墨蹟である。
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上記の掛け軸は 虚堂智愚の墨蹟 本文とは無関係です
国立博物館 TNNより




利休は黙ってすわっている。
宗陳は、なにか言おうと思ったが、なにをことばにしても、嘘になる気がした。
露地では、小鳥のさえずりが爽やかな朝を告げている。
そのまましばらく時間がながれた。ただ湯音だけが、高ぶることなく静かにつづいている。
立ち上がった利休が、いったん茶道口に消え、炭斗を持ってきた。
鐶をかけて釜をおろし、炭をついで、懐から香合を取りだした。
緑釉のその香合は、前にもちらっと見たことがある。
見せてほしいと頼んだが、その時は断わられた。
火箸でつまんだ香を炭のそばに置くと、利休は、香合を、宗陳の前にさしだした。
以前に拝見を望んだのを、覚えていてくれたのだ。
さしだした香合のそばに、赤い山梔子の実をひとつ置いたのは、
見たことを他言するなという意味だろう。
香合を手にとって、宗陳はながめた。
朝のやわらかな光につつまれた香合は、しっとりと深い緑に輝いている。
何百年もむかしの焼き物だろうが、肌は初々しい。
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My picture 好き勝手画             〈緑釉の香合〉

              
「おからだをお大事になさいませ」
低頭すると、利休は、香合を色の褪せた布袋にいれて懐にしまった。
「ありがとうございます」
宗陳は、深々と頭をさげて茶の席を出た。
軒の下で袈裟文庫をつけ、丸い網代笠を被った。
― 利休のこころの底には、いったいどんな毒の焔が燃えているのか。
それを思いながら、宗陳は筑紫に向かって歩き出した。

以上本文より


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                             〈禅僧の出立つ〉                     
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by koshian-honpo | 2013-03-16 22:44