京の旅あれこれ【こしあん本舗】
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【利休にたずねよ】に秘められた京を愉しむ      〈17〉
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A wifes photo              〈黄金の茶室〉金沢の観光箔座にて


2009年140回 直木賞受賞作
「利休にたずねよ」    
著者 京都市在住 山本兼一

17 「黄金の茶室」    利休  269頁
利休切腹の5年前 ―
天正14年(1586)1月16日  
京  内裏  小御所



内裏の小御所のなかに、黄金の茶室が組み上がったとき、利休は、低いうめき声をもらした。
―かくも、美しいか。
黄金と、鮮烈な緋色のとりあわせが、これほどまでに官能的で美しいとは、不覚にも、
おもっていなかった。
儀式のとき以外、ふだんあまりつかわれることのない小御所は、紫宸殿と渡り廊下でつながっている。白木の柱と床、それに襖だけのがらんとした空間である。
その屋内に、黄金の茶室ができている。
おりしも、小御所の軒端から、朝の光がさしこんできた。
茶室の壁といわず鴨居といわず、あらゆるところで、金色の光が、まばゆくはじけ、まさにそこが宇宙の中心でもあるかのように、燦然と煌めいている。
まことに荘厳であった。
「もうできたか」
秀吉があらわれた。
赤い小袖に金襴の羽織を着たこの小男こそ、世にもまれなこの茶室の所有者である。
あとにつづいた白粉顔は、元関白の近衛前久だ。
「黄金の茶室と聞いて、はて、どのようなものかと思案をめぐらせておったが、いやいや、
これほどまでに仰山な金がつこうてあるとは、驚いた」

近衛前久は、秀吉よりひとつ年上なだけだが、秀吉の親代わりである。
近衛家のうしろだてを得て、秀吉は、去年、関白に就任した。
秀吉は、返礼として、この小御所で、帝や親王らに茶を献じた。
名物の茶道具おしげなくならべ、秀吉としては、大いに見栄を張って力をいれた茶の湯であったが、帝は、かくべつ驚いた顔も見せなかった。
それが不満で、秀吉は、新しく黄金の茶室をつくらせたのである。
茶室は、横に長い平三畳。
部材はばらばらにはずせる。黄金の柱を立て、黄金の敷居と鴨居をとりつけ、黄金の壁をはめこみ、黄金の天井をとりつけるだけで、どこでも簡単に組み立てることができる。
畳は、どんな赤よりも赤い猩々緋の羅紗。

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A wifes photo           〈黄金の茶道具〉金沢の観光箔座にて


そこにすえた台子皆具の茶道具も、すべて黄金でできている。
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黄金の天目茶碗に湯をそそぎ、温めている。
湯をこぼし、茶巾でぬぐうとき、茶碗をきっちり水平にもつ。
茶碗の周囲を丹念に四度ぬぐい、内側は五度拭く。
どこまでも、おごそかに、秀吉は茶を点てた。
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                             〈黄金天目茶碗〉        
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My picture                      〈黄金茶釜〉
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秀吉は笑っている。
利休は黙ってことばがつづくのを待った。
「おまえが女を目利きして、床入りまで万端しつらえれば、さぞや風雅な閨が堪能できるであろうと思うたまで」
「めっそうもないことです」
「ざれごとではない。こんどは茶ではなく、女人を馳走せよ」
「さような仕儀はいたしかねます」
ゆっくりと利休は首をふった。
ふん、と鼻を鳴らした秀吉は、さして気にとめたようすもない。うすく笑って、もう立ち上がっている。
利休は平伏した。「慢心するでないぞ」
軽く言い捨てて立ち去る秀吉の衣ずれの音が、いつまでも利休の耳に粘りついた。
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My picture                     〈緑釉の香合〉


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by koshian-honpo | 2013-04-03 11:26