社寺案内より 京都山崎の宝積寺
(ほうしゃくじ)本堂
* 最終章に近づくにつれ京を離れてきますが、宜しく。
2009年140回 直木賞受賞作
「利休にたずねよ」
著者 京都市在住 山本兼一
19 「待つ」 千宗易 301頁
利休切腹の9年前 ―
天正10年(1582)11月某日
山崎 宝積寺城 待庵
Travel jpより 〈待庵〉
山崎の宝積寺城は、にわか作りの城である。
京と大坂のさかいにあるこの地で明智光秀を破ってから、羽柴秀吉は、この城を根城にしている。
天王山の山頂にあった古い曲輪と、山麓にある宝積寺をつかい、いそぎ石垣や柵をめぐらせただけなので、縄張りも普請もいたって中途半端だが、要害がいいし、なによりも西国街道の首根っこを扼することができる。
山に登れば、京の空がながめられる。
この城にいれば、いつでも京に駆け込める。京から敵が来れば、大坂から西国に逃げられる。
信長亡きあとの天下をねらう秀吉にとっては、ことのほか利のある場所であった。
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Travel jpより 〈杮葺き屋根の待庵〉
「雪が降れば・・・」
秀吉がつぶやいた。小田信孝がいる岐阜城を囲むつもりだろう。
雪にはばまれて、越前にいる柴田は、援軍に出られない。
信孝は、寡兵だ。
降伏するしかない。
それは、とりもなおさず、天下が秀吉の掌に転がり込んでくることを意味している。
もしも、あわてて雪が降る前に出陣して岐阜城を囲めば、柴田勝家に背後を突かれてしまう―。
待たなければならない。
北国街道が雪に閉ざされるまで、まだひと月はかかる。
それまで待たねばならない。
秀吉は、それが待ちきれず、苛立っているに違いなかった。
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My picture 〈好き勝手茶碗 1〉
二畳の席は、ひんやりしている。
天井の低い空間だが、部分的に屋根と同じ勾配をつけ、ひろがりを出している。
壁は、荒い藁苆が見えている。内側は、上塗りをせずこのままにしておく。
ほのかに青く見えるのは、墨を薄く塗ったからだ。狭くとも、こころを落ち着かせるしつらえである。
炉縁は、黒柿にしようかと考えたが、このままで草庵めかした侘びた席では、それもあざとかろう。迷ったすえ、沢栗にした。普通の栗より木目がこまかく柔らかい。
次の間とのあいだには、鼠色の襖が二枚。縁のない太鼓張りである。
宗易は、炉の前にすわった。火はない。
宗恩が、床前にすわった。
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My picture 〈好き勝手茶碗 2〉
「へんな言い方ですけど、牢屋みたいな気がいたします」
「・・・・・」
「部屋も入り口も狭くて、窓に格子があって・・・」
「・・・・・」
宗易はうなずいた。そう言われれば、造りはたしかに似ているかもしれない。
「庵号は、おつけになりましたの」
「待庵だ」
「たい、あん・・・」
「待つ庵だ」
宗恩がうなずいた。
「・・・この席で、なにを待ちましょうか」
「上様にこころ閑かに、たいせつな時を待っていただける茶の席をこしらえたつもりだ」
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茶道PHより 〈菊炭〉
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都の向こうの越前は大雪だろう。
「降っておるな」
「はい。降っておりましょう」
秀吉は、腕枕でごろりと横になった。
「果報は寝て待つべし。ひと眠りしよう」
両手をついて、宗易は頭を下げた。
襖を閉めようとすると、声がかかった。
「おまえは極悪人じゃな」
秀吉が、大きな目を開けて、宗易をにらんだ。
「さようでございましょうか」
「ああ、筍を騙すなど、極めつきの悪党だ」
「ありがとうございます。お褒めのことばと思っておきます」
いまいちど頭を下げると、宗易は静かに襖を閉めた。
Wikipediaより 〈山崎城 本丸跡〉
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「名物狩り」 織田信長 319頁